宇宙空間や成層圏、医療用放射線装置、高エネルギー実験施設などの放射線環境では、
水晶デバイスや光学部品が性能劣化を受け、長期安定性の確保が課題となります。
NDKでは、このような過酷な環境に対応するため、最高純度人工水晶「N-Grade EX」と
さらに独自のSwept処理を施した「N-Grade EXs」をラインアップしています。
放射線環境下での
課題
1.周波数シフト
人工水晶には、微量のAl(アルミニウム)やLi(リチウム)、ナトリウム(Na)などの不純物が含まれています。これらは結晶内で結合して存在していますが、放射線が照射されると結合が壊れ、格子欠陥や電荷トラップが生成されます。その結果、結晶の弾性特性が変化し、共振周波数がシフトします。
この周波数のズレは、水晶振動子や発振器を用いた通信・計測・制御システムの基準信号に直接影響を与え、特に長期ミッションや高精度機器では致命的な誤差につながります。
なお、この現象は古くから報告されており、1989年の研究(Shimoda & Uno, IEICE)でも高エネルギー放射線環境における周波数シフトが確認されています。
【放射線による水晶振動子の
周波数変化メカニズム】
2.光学部品の劣化
放射線照射によって水晶内部に「色中心」と呼ばれる欠陥が形成され、光を吸収することでブラウニング(褐色化)が発生します。
この現象は、光学ガラスを含む多くの透明素材で共通して起こりうる劣化であり、紫外~可視域での透過率低下や光学特性の変化を引き起こします。
水晶においては、結晶中に含まれる微量のAlが起点となりやすく、Alが存在すると放射線による欠陥生成が促進されます。
【一般的な光学用人工水晶の
放射線照射試験】
Swept処理なしで99.99999(7N)の高純度を実現した
「N-Grade EX」
NDKの最高純度人工水晶「N-Grade EX」は、素材そのものに劣化要因をつくらないというアプローチに基づき開発された人工水晶です。Swept処理を行わずとも、結晶成長段階でLiやNaといった不純物をほぼ完全に除去することで、99.99999%(7N)の高純度を実現しています。
Al含有量も極めて少なく、放射線照射による色中心の形成が抑えられ、周波数シフトや光学ブラウニングが従来素材に比べ大幅に低減されます。
実証実験でも、31MGy照射後も紫外~可視域の透過率を維持し、光学用途においても高い放射線性を示しました。
【N-Grade EXの放射線照射試験】
一般的な光学ガラスでは、放射線による色中心形成を抑えるために、セリウムなどの添加剤を用いる補償的な対策が採られます。
一方、水晶では構造そのものが異なるため、設計次第で放射線劣化の主因を素材段階から排除できるという特長があります。
NDKではそれを追求し、高い照射線量下でも光学性能を維持する安定性を実現しています。
NASA仕様にも適合可能な「N-Grade EXs」
通常のSwept Quartzには、Alが不純物として残留するのに対し、「N-Grade EXs」はN-Grade EXをベースにNDK独自のSwept処理を施すことで、Li・Naに加えてAl含有量を実質ゼロレベルまで低減しました。
これにより、EXsは放射線環境下における周波数安定性や光学特性が更に向上し、より厳しい使用条件にも対応が可能となります。
さらに、NASA仕様にも適合可能で、長期ミッションをはじめとした極限環境で利用に適した最高レベルの安定性を実現します。
【各人工水晶の含有不純物濃度比較】
※本データは参考値であり、
保証値ではありません。
【NDKのSweepingプロセス概要】
Swept処理は、高温(530~550℃)・高電圧(1kV/cm)環境下でLiやNaを水晶から除去する工程であり、
NDKでは炭素電極を用いた独自技術により、水晶へのダメージを抑えつつ高純度化を実現しています。
N-Grade EX・
N-Grade EXsの
応用可能性
N-Grade EX・N-Grade EXsは、以下のような放射線環境下での使用が想定される分野等の過酷な環境での長期安定性が求められる分野に最適です。
宇宙機器
(衛星・探査機・宇宙望遠鏡)
宇宙線や太陽フレアによる放射線が常時降り注ぐ環境下で周波数安定性と光学性能を維持。
成層圏通信
(HAPS)
成層圏に無人航空機を基地局として長期間飛行させる構想。宇宙線・ガンマ線の影響が強く、周波数変動が懸念される環境で有効。
医療機器
(放射線治療装置・PET・CT)
高線量放射線が内部部品に影響を与える環境下で、光学的劣化が起こりにくく、周波数安定にも優れる。
NDKのN-Grade EXおよびN-Grade EXsは、従来の処理技術の枠を超え、素材そのものから放射線耐性を進化させた人工水晶です。
周波数も透過率も守り抜き、過酷な環境での信頼性を提供します。
また、NDKでは現在、この素材を用いた製品の性能評価を進めており、お客様のニーズに応じた応用展開を視野に入れた検証を継続しています。